分析法開発と卓越した生産力

私たちは、高速液体クロマトグラフー質量分析計やガスクロマトグラフィー質量分析計を主に使用して、研究者や世の中のニーズを捉えながら、高感度であったり、または高速、安価、簡便、正確というような特徴を持った測定法を現況を把握しながら開発します。独自および共同研究の疫学や症例対象研究に測定法を応用するにあたり、効率的に測定法を運用すべく日々新しい技術を取り入れています。測定ターゲットの柱は、人体に吸収された化学物質の曝露マーカー、酸化アルブミン、便中代謝物、ICT技術の衛生学への応用です。

化学物質曝露と腸内環境の関係

 腸管内細菌叢に関する研究は、この10年で急速に研究が蓄積されており、肥満、免疫、動脈硬化、精神疾患など、従来の想定以上にヒトの健康に関わっていることが明らかになってきました。今後も疾病発症から、治療、予防までを含めた幅広い領域での研究の発展が加速すると予想される。最新の研究によると、アンケートで収集できる情報のうち、便の性状スケール、性別、年齢、排便頻度が腸内細菌叢の変動因子として抽出されたが、個人差を10%程度しか説明できず、他の変動因子の存在が強く考えられます[Park et al. BMC Microbiol.2021;21(1):151]。一方で、動物実験では化学物質曝露による腸内環境への影響を示す結果が次々に報告されています。したがって、日常的に曝露する化学物質がヒト腸内環境の変動因子の一つである可能性があること、研究者のみならず国民にとっても腸内環境への関心は少なくないこと、ヒトを対象にした情報はごく限られてことから、今後は化学物質が及ぼす腸内環境への影響を疫学的アプローチで明らかにすることが求められています。

 私たちは、疫学研究に応用可能な腸内環境計測方法の基盤を整え、「腸内環境と化学物質曝露の因果関係に関する疫学研究」に先立ち、生体試料分析による曝露評価(農薬や殺菌剤)と腸内環境評価を予備的な疫学調査で実践しています。

 最近の研究としては、一般生活者 38 名から尿と便を収集し、尿中の農薬代謝物等を測定することで曝露レベルを評価し(バイオモニタリング )、腸内細菌叢や代謝物濃度に影響するかどうかを評価した研究があります。結果として、有機リン系殺虫剤の曝露マーカーとして知られる尿中ジアルキルリン酸濃度と便中酢酸および乳酸濃度との間に統計的有意に負の相関が検出されました。このうち、食事や生活習慣で調整した多変量解析でも、尿中ジアルキルリン酸濃度は便中酢酸濃度の有意な説明変数として検出されました。作用機序は未解明ですが、日常的な有機リン系殺虫剤の曝露が、腸管免疫制御などに寄与している便中酢酸濃度に影響することを示唆する結果を得た初めての調査であり、さらなる詳細調査の実施が強く期待される成果です。

 

 

 尿中農薬曝露マーカー

研究室では分離分析装置を利用して、尿中に排泄される殺虫剤やその代謝物類を高感度でかつ安定的に分析できる方法を確立し、その測定法を子供や妊婦、一般成人、職業的殺虫剤散布作業者の殺虫剤曝露評価に応用してきました。特に有機リン系殺虫剤(OP)、ピレスロイド系殺虫剤(PYR)およびネオニコチノイド系殺虫剤(NEO)の尿中曝露マーカーの基本特性の包括的理解、すなわち濃度分布、季節変動、経年変化、職業間差などを調査しており、殺虫剤曝露マーカーの適切な使用方法および解釈に資することができる重要な情報基盤の構築に注力しています。これに加えて、尿採取が困難な新生児や小児を対象とした曝露評価を行うために、使い捨てオムツを利用した新規分析法を開発したり、近年頻繁に使用されているNEOの尿中排泄量を初めて実証するなど、世界をリードしている成果も積み重ねています。

共同研究施設:

名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学

一般社団法人日本予防医学協会

岡崎市

愛知県衛生研究所

 


酸化アルブミン

これまで、尿酸やビリルビンの影響を受けないHPLCによる酸化および還元型アルブミンの分離は困難でした。しかし、われわれはBCGポストカラム誘導体化法を開発したことにより、これらを解決し、臨床検体への応用を可能としました。

今後はこの測定法を応用して、酸化アルブミンの臨床的意義について検討を進める予定です。

臨床研究の成果として、地域在住高齢者において運動耐容能の指標である6分間歩行距離と参加アルブミン割合f(HMA)が関連することを報告しています。また、心不全患者の再発の予測因子としてのf(HMA)の臨床的意義を現在調査中です。

共同研究施設:名古屋大学医学部附属病院検査部、神戸常盤大学

 


ICT技術の衛生学への応用

感染症発生対策として、また安全かつ効率的な防除作業を実施するために平常時より地域特有の蚊成虫生息状況を把握しておくことは一般市民に安全を提供する観点からも重要な取り組みです。この調査では、市民の方からスマホやタブレットなどから蚊の生息に関連する情報、たとえばいつ、どこで、誰が蚊に刺されたかなどの情報を提供いただき、新しい蚊の調査法および被害予防方法の確立を目指します。

共同研究施設:岡崎市


メタボロミクス研究

メタボロミクスに存在する限界を、検査技師の視点から探し出し、改善に向けて努力しています。主な対象サンプルは尿と便です。

共同研究施設:アジレント・テクノロジー社、九州大学



当研究室大学院生か上山が第一著者の国際科学雑誌(過去8年研究成果)

Ueyama J, Hayashi M, Hirayama M, Nishiwaki H, Ito M, Saito I, Tsuboi Y, Isobe T, Ohno K. Effects of Pesticide Intake on Gut Microbiota and Metabolites in Healthy Adults. Int J Environ Res Public Health. 2022 Dec 23;20(1):213. 

 

Kitahara Y, Nomura H, Nishihara N, Ueda T, Watanabe S, Saito I, Ueyama J. Survey of Arsenic/Heavy Metals and Pesticide Residues in Edible Insects for Human Consumption or Supplied in Japan. Shokuhin Eiseigaku Zasshi. 2022;63(4):136-140. 

 

Nomura H, Hamada R, Wada K, Saito I, Nishihara N, Kitahara Y, Watanabe S, Nakane K, Nagata C, Kondo T, Kamijima M, Ueyama J.

Temporal trend and cross-sectional characterization of urinary concentrations of glyphosate in Japanese children from 2006 to 2015.

 Int J Hyg Environ Health. 2022 May;242:113963. 

 

Risa Hamada, Yuko Ueda, Keiko Wada, Isao Saito, Hiroshi Nomura, Michihiro Kamijima, Kunihiko Nakane, Chisato Nagata, Takaaki Kondo, Jun Ueyama. Ten-year temporal trends (2006–2015) and seasonal-differences in urinary metabolite concentrations of novel, hygiene-used pyrethroids in Japanese children.International Journal of Hygiene and Environmental Health. Volume 225, April 2020, 113448

 

Ueyama J, Aoi A, Ueda Y, Oya N, Sugiura Y, Ito Y, Ebara T, Kamijima M. Biomonitoring method for neonicotinoid insecticides in urine of non-toilet-trained children using LC-MS/MS.

Food Addit Contam Part A Chem Anal Control Expo Risk Assess. 2019 Dec 11:1-12.

 

Ueyama J, Oda M, Hirayama M, Sugitate K, Sakui N, Hamada R, Ito M, Saito I, Ohno K. Freeze-drying enables homogeneous and stable sample preparation for determination of fecal short-chain fatty acids.

Anal Biochem. 2020 Jan 15;589:113508.

 

A sensitive and efficient procedure for the high-throughput determination of nine urinary metabolites of pyrethroids by GC-MS/MS and its application in a sample of Japanese children Ueda Y, Oda M, Saito I, Hamada R, Kondo T, Kamijima M, Ueyama J. Analytical and Bioanalytical Chemistry   410(24) 6207-6217   2018年9月
Watanabe M, Ueyama J, Ueno E, Ueda Y, Oda M, Umemura Y, Tanahashi T, Ikai Y, Saito I. Food Additives and Contaminants - Part A Chemistry, Analysis, Control, Exposure and Risk Assessment   35 1-8   2018年
Oya N, Ito Y, Hioki K, Asai Y, Aoi A, Sugiura Y, Ueyama J, Oguri T, Kato S, Ebara T, Kamijima M.

International Journal of Hygiene and Environmental Health   220(2) 209-216   2017年

 

Osaka A, Ueyama J, Kondo T, Nomura H, Sugiura Y, Saito I, Nakane K, Takaishi A, Ogi H, Wakusawa S, Ito Y, Kamijima M.

Environmental Research   147 89-96   2016年

 

Ueyama J, Ishikawa Y, Kondo T, Motoyama M, Matsumoto H, Matsushita T.

Annals of Clinical Biochemistry   52(1) 144-150   2015年

 

Ueyama J, Harada K.H, Koizumi A, Sugiura Y, Kondo T, Saito I, Kamijima M.

Environmental Science and Technology   49(24) 14522-14528   2015年

 

Ueyama J, Saito I, Takaishi A, Nomura H, Inoue M, Osaka A, Sugiura Y, Hayashi Y, Wakusawa S, Ogi H, Inuzuka K, Kamijima M, Kondo T.

Environmental Health and Preventive Medicine   19(6) 405-413   2014年

 

Ueyama J, Nomura H, Kondo T, Saito I, Ito Y, Osaka A, Kamijima M.

Journal of Occupational Health   56(6) 461-468   2014年

 

Saito S, Ueyama J, Kondo T, Saito I, Shibata E, Gotoh M, Nomura H, Wakusawa S, Nakai K, Kamijima M.

Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology   24(2) 200-207   2014年

 

Fujii R, Ueyama J, Aoi A, Ichino N, Osakabe K, Sugimoto K, Suzuki K, Hamajima N, Wakai K, Kondo T.
Environmental Health and Preventive Medicine   23(1)    2018年

尿中DEETのバイオモニタリングデータ報告まとめ